労働安全衛生規則(安衛則)が改正され、足場からの墜落防止措置が強化されました。これにより、厚生労働省は、令和6(2024)年4月から建設現場での本足場の使用を義務化。マンション大規模修繕工事においても、仮設足場ではなく、原則として本足場を使用することが必要となりました。
大規模修繕工事にあたって、マンション管理組合は法改正に伴う足場設営に関してどのようなことに注意したら良いのでしょうか。この記事では、仮設足場と本足場の違い、また足場改正が大規模修繕工事に与える影響などについて解説します。
マンション管理組合が知っておくべき足場改正
(出典:厚生労働省「死亡災害発生状況の推移」)
厚生労働省「令和3年の労働災害発生状況の概要」によると、建設業の死亡者数は年々減少傾向にあったものの、前年比で11.6%増加しました。原因としては、墜落・転落が最も多く38%、労働災害全体で足場からの災害は約2割あったそうです。死亡事故で2番目に多い(その他を除く)崩壊・倒壊は通行人などを巻き込む危険すらあります。
この状況に対処するため、安衛則が改正され、令和4(2022)年5月31日に公布されました。令和6(2024)年4月1日以降、建設工事を行う場合は原則として本足場を使用することが義務付けられています。
ただし、これはあくまで原則であり、現場の状況や作業内容によっては必ずしも本足場を使用するわけではありません。工事の規模や期間、作業の性質、現場の特性などを考慮し、適切な足場の選択が求められます。安全性を最優先しつつ、効率的な作業を実現するためには、個々の現場に応じた柔軟な対応が必要となります。
足場からの墜落防止のため安全性を強化
安衛則改正に伴い、建設工事現場で幅が1メートル以上ある箇所に足場を設置する場合、原則として仮設足場ではなく本足場の設置が必要となりました。なお、幅が1メートル未満の場合であっても、可能な限り本足場を使用することが推奨されています。
マンションの大規模修繕工事や屋根・外壁のリフォームなどにも、もちろん、この足場の新ルールは適用されます。管理組合主導で足場が必要な工事を依頼する際には、上記のような法改正に準拠しているかどうかを確認することが重要です。
日常点検の義務化&責任者の指名も必要に
足場の組立て・解体・変更の作業を行うには、「足場の組立て等作業主任者」という国家資格に合格する必要があります。さらに、法改正により、事業者または注文者が足場の点検を行う際には点検者を指名すること、足場の組立て等の後の点検者の氏名の記録・保存も必要になりました。指名する点検者については以下の要件も示されています。
- 足場の組立て等作業主任者であって、足場の組立て等作業主任者能力向上教育を受講している者
- 労働安全コンサルタント(試験の区分が土木又は建築である者)等労働安全衛生法第88 条に基づく足場の設置等の届出に係る「計画作成参画者」に必要な資格を有する者
- 全国仮設安全事業協同組合が行う「仮設安全監理者資格取得講習」を受けた者
- 建設業労働災害防止協会が行う「施工管理者等のための足場点検実務研修」を受けた者
なお、厚生労働省の足場からの墜落防止対策強化に関するホームページには、「足場等の種類別点検チェックリスト」も掲載されていますので、参考にされると良いでしょう。
そもそも、仮設足場と本足場の違いとは?
では、なぜ、建設現場の安全対策として本足場が必要なのでしょう?そもそも、仮設足場と本足場は構造上どのような違いがあるのか、仮設足場と本足場それぞれにメリット・デメリットがあるのか…など、仮設足場と本足場の基礎知識についてお伝えします。
仮設足場(一側足場)とは
仮設足場は「一側足場(ひとかわあしば)」とも呼ばれるように、1本の支柱にブラケットを設置して、その上に作業板を乗せるという方式で組み立てます。建築物の外壁面等に沿って、支柱(建地)を一列設置した構造の足場を指します。
仮設足場のメリットは、資材も比較的少なく、スピーディーに組み立てられるため、工期が短縮でき、コストも抑えられることです。狭小地にも設置しやすい利点もあります。その反面、片側にしか支柱がなく、ブラケットで支えているため強度も耐荷重も低く、安定性や耐久性が劣るというデメリットがあります。
本足場(二側足場)とは
本足場とは、「二側足場(ふたかわあしば)」と呼ばれることもあり、2本の支柱の間に作業板を渡して組み立てます。建築物の外壁面等に沿って、支柱(建地)を二列設置して組み立てる足場を指します。
縦方向の支柱を内側と外側に2本設置するため、より強度が増し、安定性と耐久性が高まる点が本足場のメリットです。ただし、障害物が存在する外壁面や狭小地への設置は困難というデメリットがあります。また、資材を多く用いるため、仮設足場よりコストや工期が上回ることを覚悟しなければなりません。
足場改正が大規模修繕工事に与える影響
建設業者や修繕・改修工事業者は、本足場の設置に関して改正法規に従う義務があります。この規則に違反すれば、6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金に処するという罰則も定められています。
したがって、大規模修繕工事を発注する相手先は、大前提として労衛則改正をきちんと踏まえている業者でなければなりません。業者選びにあたって、マンション管理組合が心得ておくべきチェックポイントをご紹介しましょう。
作業工程と工事期間への影響
仮設足場と本足場の違いでもご説明したとおり、本足場のほうが資材を多く必要とし、作業や点検に手間がかかることから、コストや工程が増えます。本足場が義務化されたことで、以前に比べて大規模修繕工事に要する足場の費用や工賃の値上がり、工期が多少延長する可能性があることをマンションの管理組合も住民も覚悟しなければなりません。
一般的な戸建て住宅なら、足場の設置は1日程度、解体作業は半日程度が最短の目安となります。しかし、マンションの場合ですと、本足場の作業にかかる日数は小規模でも10日〜15日程度、中規模や大規模なら20日〜30日程度かかることもあります。タワーマンションの場合は、低層階のみに足場を設置し、高層階にはゴンドラを使用するなど、足場の設置や解体には1ヶ月以上の日数を要し、ゴンドラのレンタル料などのコストもかかります。
費用と業者選びへの影響
一時期、「足場無料」をアピールする業者も存在しました。しかし、もはや法改正で本足場が必要とされるようになった現在、足場のコストが無料になることはあり得ません。もし、今でも足場無料の見積をする業者がいるとすれば、それは違法か、どこかで資材の品質を落としているか、手抜き工事を行おうとしていると疑ったほうが良いでしょう。
これまでは足場に関する見積は工事費用全体の2割が目安とされてきましたが、本足場となるとそれ以上の割合を占める可能性があります。足場に関する値上げの理由を、法改正に則ってきちんと説明できる信頼できる業者を選びましょう。
まとめ:施工前に押さえておきたい足場の知識
足場からの墜落防止措置を強化するため、法改正によって令和6(2024)年4月から建設現場での本足場の使用が必要となりました。従来の仮設足場に比べ、本足場は工期日数も費用もかかりますが、安全には変えられません。万が一、足場の崩落事故が発生してしまったら、作業員だけでなく、マンションの住民や通行人の生命を脅かすことにもなりかねないからです。
株式会社RYU-SHINには、国家資格である「足場の組立て等作業主任者」の合格者をはじめ、有資格者が多数在籍しております。また、中間マージンの発生する下請け制ではなく、シンプルな発注構造でコスト削減を図り、高品質な施工やサービスをご提供しております。マンションの大規模工事における本足場の設置に関してのご相談やお見積は、どうぞお気軽にRYU-SHINまでお問い合わせください。
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