マンションの大規模「修繕」、「改修」との違いは?
「修繕」とは、建物の機能維持や経年劣化による事故や不具合を防ぐために行う工事で、建物の状態を建設当時と同様の性能に戻すことが目的です。一方、「改修」とは、時代状況に見合った居住水準が得られるよう、建物の性能を高めることを目的とした工事となります。
建築物の敷地・設備・構造・用途についての最低基準を定めた法律「建築基準法」によると、大規模修繕とは「建築物の主要構造部の一種以上について行う過半の修繕をいう」となっています。主要構造部とは、壁、柱、床、はり、屋根、階段を指します。
資産価値と安全性維持には大規模修繕工事が不可欠
通常、分譲マンションでは、管理組合が主体となって長期修繕計画を立て、それに基づいて一定の周期で大規模修繕工事を実施します。大規模修繕工事はその名の通り大掛かりな工事で、工期も長期にわたり、工事費も高額となります。
この記事では、これから大規模修繕工事を検討しているマンション管理組合の方々に向けて、工事の費用と流れについて解説します。修繕工事の業者選びや金額交渉に失敗しないよう、ぜひ参考にしてください。
「長期修繕計画作成ガイドライン」の改定ポイント
国土交通省の「長期修繕計画作成ガイドライン」は、マンションの管理組合が修繕計画を行う際に指針となる情報を掲載しているものです。平成20(2008)年に初版が、令和6(2024)年6月7日に最終改訂版が発行されました。
「長期修繕計画作成ガイドライン」改定点は、主なポイントが以下の2つ。長期修繕計画期間と修繕積立金額の目安についてです。
① これまで25年以上だった既存マンションの長期修繕計画期間は、新築マンション同様、2回の大規模修繕工事を含む30年以上に変更。
② 人件費や建築費の高騰を踏まえ、修繕積立金の目安となる単価が見直され、修繕積立金額の目安となる計算式を下記のように改正。
「マンション管理計画認定制度」による資金的メリット
「長期修繕計画作成ガイドライン」の内容は、令和4(2022)年からスタートした「マンション管理計画認定制度」の認定基準としても用いられます。
「マンション管理計画認定制度」とは、マンション管理組合が管理計画などを都道府県に提出し、管理体制が一定の基準に達していると判断されれば、認定を受けられる制度です。
認定を受けられれば、マンション管理組合にとっても以下のような資金的メリットがあります。
- ●住宅金融支援機構の「マンション共用部分リフォーム融資」の金利が年0.2%引き下がる。
- ●修繕積立金の積み立てをサポートする1口50万円から利付10年債権、住宅金融支援機構の「マンションすまい・る債」の利率が上乗せされる。
- ●令和5(2023)年度の税制改正で創設された「長寿命化に資する大規模修繕工事を行ったマンションに対する特例措置(マンション長寿命化促進税制」)を適用して固定資産税を減額できる。
マンション大規模修繕工事の費用相場
管理組合等が工事を発注する際に、見積内容や金額が適正かどうか検討できる指標として、直近3年間に行われた大規模修繕工事事例を基に、国土交通省は「マンション大規模修繕工事に関する実態調査」を実施しています。
※出典:国土交通省「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」
マンション大規模修繕工事の回数と戸あたりの工事費用
大規模修繕工事回数(戸数又は工事金額について無回答は除く) | 戸あたり工事金額(万円/戸) | |||
---|---|---|---|---|
下位25%値 | 中央値 | 上位25%値 | 平均値 | |
1回目(n=331) | 90.9 | 110.2 | 134.0 | 151.6 |
2回目(n=194) | 87.8 | 106.1 | 129.8 | 112.4 |
3回目以上(n=242) | 76.8 | 97.0 | 125.7 | 106.1 |
※出典:国土交通省「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」
大規模修繕工事の費用相場は、工事の内容や建物の規模などによって、かなり違ってきます。
国土交通省「マンション大規模修繕工事に関する実態調査」(令和3年)によると、1回目の修繕工事の費用は1戸あたり90万円〜134万円ほどで、平均151.6万円。たとえば総戸数200戸のマンションであれば、総額の平均は3億320万円という計算になります。
2回目の費用は1戸あたり87.8万円〜129.8万円ほどで、平均112.4万円。3回目は1戸あたり76.8万円〜125.7万円ほどで、平均106.1万円でした。
2回目以降は費用が安くなる傾向にありますが、逆に次の工事までの間隔は狭まるので、その点も踏まえて計画を練る必要があるでしょう。
各工事にかかる費用の相場は、次の通りです。
外壁関連工事の費用相場
外壁関連の修繕工事は、大規模修繕の中でもメインで行われる工事で、ほとんどのマンションが実施しています。
外壁関連工事にかかる1㎡あたりの費用相場は、塗装費用が約6,000〜10,000円、補修工事費用が約6,000〜15,000円、鉄部の防錆工事費用が約5,000〜10,000円です。
マンションの場合は一戸建てと違って形や高さがさまざまで、窓の数やエントランスの大きさも違うので、簡単な計算式で平米数を知ることはできません。
単純な長方形のマンションであれば、比較的容易に面積を出せますが、それ以外のマンションは業者の綿密な計測が必要でしょう。
たとえば塗装業者が面積を出すときは、建物をしっかりと測った上で図面を起こし、それをもとに面積を算出して見積もりを出します。さらに足場を組んで塗装する場合は、足場の組みやすさなどによっても金額が異なってきます。
塗装工事の費用は、全体の修繕工事の約3割を占めているので、塗装費用がいくらになるかは非常に重要なポイントです。
給排水管工事の費用相場
給排水設備の工事にかかる費用相場は、共用部の排水管を交換する場合なら、戸当たり40万円〜70万円、専有部の排水管も交換するのであれば、さらに戸当たり40〜70万円程度かかります。また、給水管引き込み工事は1mあたり1.5万~2万円程度が相場の目安とされています。
給排水工事もまた、外壁工事に次いで大規模修繕のメインの工事となっています。築年数が経過すると給排水管も経年劣化し、そのまま放っておくと水道水が着色したり、水量が減少したりといったトラブルにつながるため、給水管の状態に合わせて工事を行う必要があります。
マンションの配管寿命は、使用する管の種類によって15年〜40年と開きがあり、一般的には30年前後と言われています。
多くのマンションは、2回目以降の大規模修繕工事で、補修または交換することになります。適切な時期を選んで、工事の準備を進めましょう。
屋上防水工事の費用相場
屋上の防水工事にかかる費用相場は、トップコートのみの場合㎡あたり2,000円〜2,500円、トップコートと防水層を含む場合㎡あたり4,000円〜7,000円です。
マンション屋上の防水工事も工法によって費用が異なります。ウレタン防水やFRP防水が一般的で、ウレタン防水は1㎡当たり6,500円〜12,000円、FRP防水は1㎡当たり6,500円〜10,000円が目安となります。
屋上の防水をしないで放っておくと、雨漏りや漏水が起こる可能性があり、マンションの鉄筋が腐食したり、建物の耐久性が低下する危険性もあります。
適切な時期に屋上の防水工事を行いましょう。一般的な防水工事のメンテナンス時期は10年〜15年前後なので、多くのマンションは1回目の大規模修繕で行っています。
共用部の補修工事の費用相場
エントランスや集会室、屋内廊下などの共用部は、築年数が経つにつれて設備が老朽化したり、機能的に古いなどの理由から、補修が必要になってきます。
たとえば、新たにオートロック機能を付けるマンションや、手動のドアを自動ドアに変更するマンションなどもあります。共用部分の補修工事で最も費用を要するのがエレベーターの交換でしょう。エレベーターは定期的に保守点検していれば、耐用年数は25年〜30年程度あります。
共用部は日々多くの人が利用するスペースなので、入居者の年齢や時代のニーズなどに合わせて、臨機応変にリフォームを行う必要があるでしょう。
共用部の補修工事にかかる費用相場は、エントランスのオートロック化費用が戸当たり10万円~15万円、エントランスの自動ドア設置費用が戸当たり15万円~20万円、エレベーター修繕費用は全撤去交換であれば1,200万円~1,500万円、制御リニューアルの場合は1基あたり500万円~が目安です。
ベランダ・バルコニー工事の費用相場
マンションのベランダやバルコニーで必須なのが、防水工事です。防水の種類にもよりますが、1㎡当たり2,500円〜8,000円程度が相場とされています。
また、ベランダやバルコニーは落下の危険があり、避難経路としても使われるので、耐久性や安全性が保たれているかどうかも十分留意しなければなりません。手すりの腐食や床のひび割れなどは、放っておくと非常に危険なので、必ず補修する必要があります。
1㎡あたりの費用は、手すりの防錆塗装が約1,000〜3,000円、床面のFRP防水工事が約6,000〜9,000円、排水管の補修が約140万円です。
劣化診断の費用相場
大規模修繕には多額の費用がかかるので、無駄な費用を省いて本当に修繕が必要な箇所を見極めるためにも、規模の大きいマンションは専門家による「劣化診断」(建物調査診断)を行うことをお勧めします。
施工会社やマンション管理士が行う無料の劣化診断もありますが、無料診断では主に目視と打診しか行いません。検査器具を使ってコンクリートの耐久性などを診断するためには、有料の劣化診断を行う必要があります。
劣化診断の費用相場は、マンションの総戸数が30戸以下で20万円〜40万円ほど、50戸〜100戸で30万円〜80万円ほど、200戸以上で50万円〜100万円ほどです。
劣化診断を受けることによって、無駄のない修繕工事を行うことができ、建物をより良い状態で長く保つことができるでしょう。
工事諸費用相場
大規模修繕工事では、外壁工事や給排水工事、防水工事といった一連の修繕工事以外にも、さまざまな経費がかかります。たとえば足場の設置費用、現場事務所の仮設費用、産廃処分費用、安全対策費用などです。
なお、令和5(2023)年の労働安全衛生法により、幅1m以上の場所には、原則として本足場を設置することが義務付けられました。本足場とは、建築物の外壁面等に沿って支柱を二列設置して組み立てる足場を指します。足場代の相場は1㎡当たり600円〜1,000円ですが、 法改正により数%〜10%程値上がりが予想されています。
現在、世界的な建築資材の高騰や建築従事者の労務費の増加などに伴い、建築費は高騰しています。工事の種類や規模によって異なりますが、工事諸費用の比率は工事費の10%〜15%前後が目安と考えれば良いでしょう。
コンサルタント報酬費用相場
大規模修繕工事を行う際は、管理組合が主体となって施工会社を選ぶこともできますし、管理会社に修繕関係のすべてを任せることもできます。
しかし、管理組合のメンバーが建築の専門的な知識を持っていないと、どのようにして修繕計画を立てたらいいかわからない場合も少なくありません。
管理会社に一任する方法もありますが、競争原理が働かないため、相場をはるかに上回る高額の見積りを出されてしまう危険性もあります。
そこでもうひとつの方法としてお勧めしたいのが、「設計監理方式」です。設計事務所やマンション管理士などのコンサルタントに、大規模修繕をサポートしてもらう方法で、いま多くのマンションがこの方式で大規模修繕を行っています。
設計監理方式を選ぶことで、大規模修繕の計画から、工事会社選定のサポート、工事期間中の現場管理まで、コンサルタントにトータルで任せることができます。
管理組合と施工会社の間に第三者が入ることによって、適正価格で安心して工事を発注することができ、工事の手抜き防止にもつながるでしょう。コンサルタントへの報酬の相場は、工事費用の約5〜10%ほどです。
マンション大規模修繕工事の流れと注意点
国土交通省は、「マンション大規模修繕工事に関する実態調査」を実施するにあたって、大規模修繕工事を実施しようとする管理組合等が事前に検討した方がよい主なポイントとして以下を挙げています。
- ●工事内訳に過剰な工事項目・仕様の設定等がないか。
- ●戸あたり、床面積あたりの工事金額が割高となっていないか。
- ●設計コンサルタントの業務量(人・時間)が著しく低く抑えられていないか。特に業務量のウェートの多くを占める工事監理の業務量が低すぎないか。
マンション管理組合が大規模修繕工事に際して押さえておくべきポイントと注意点をご紹介します。
大規模修繕工事のステップと内容を把握しておく
一般的なマンションの大規模修繕工事期間は、以下が目安です。
小規模マンション 50戸未満 |
中規模マンション 50~100戸 |
大規模マンション 100戸以上 |
タワーマンション 1000戸以上 |
---|---|---|---|
2~3ヶ月 | 3~6ヶ月 | 半年~1年以上 | 2年以上 |
また、マンション大規模修繕工事の一般的な流れは以下となっています。
- 建物の調査・診断
- 調査に基づいた施工計画
- 工事会社決定
- 資金計画を確認
- 総会開催・決議
- 工事契約
- 工事実施
- 工事完了確認
- アフター点検
複数業者に費用の見積りをして比較する
大規模修繕工事をする際には、複数の業者から「相見積り」を取って、比較検討するのが一般的です。相見積りを取ることで、工事の適正価格がいくらなのかを、把握することができます。
見積り費用は、業者によってかなり違ってきます。大規模修繕の費用は高額なので、規模の大きなマンションでは、業者によって数千万円の金額差が生まれることもあります。
もし1社に絞って見積りを依頼してしまうと、その金額差に気付かずに発注してしまうことがあるので、十分に注意しましょう。
たとえばベランダの防水工事を例に挙げると、1戸あたり5万円の見積りを出す業者もいれば、10万円の見積りを出す業者もいます。
もちろん安ければいいというものではありませんが、あまりにも高過ぎる業者は、避けた方が賢明です。
見積りの一覧表を作って費用を比較する
業者ごとの見積りを比較する際は、すべての業者の提示した費用を、工事内容ごとに分けてひとつの表にまとめましょう。
どこの業者が高過ぎるか、また低過ぎるか。適正価格を提示している業者はどこかを、その表から見極めていきます。
工事のやり方もいろいろあるので、どんな工法で何の材料を使って工事をするのかなども、詳しく確認しましょう。その上で、価格を抑えられる可能性があるか否かも、検討する必要があります。
管理会社に相見積りを取ってもらう方法もありますが、このやり方は危険が伴います。一番安い業者と管理会社がつながっていて、その業者に依頼するように資料が作られている場合があるからです。
やはり業者選びは、管理組合が主体となって動くのが、最も確実な方法でしょう。コンサルタントのサポートを受けながら管理組合が動けば、より確実に優良業者を選ぶことができます。
劣化診断は管理会社任せにしない
劣化診断もまた、管理会社任せにはせず、管理組合がしっかりと入ることをお勧めします。なぜかというと、マンションの劣化具合を管理組合が積極的に把握することで、建物の状態を適切に知ることができ、コストカットにつながるからです。
これまでマンションは管理会社経由で大規模修繕工事の見積もりを立てる慣習があったので、劣化診断も管理会社任せになっていました。
しかし、そうするとどうしても、オーバースペックな工事を提案されてしまうことになります。実はその中には、実際にまだやらなくても済む工事が含まれているケースが、少なくありません。
住民がしっかりと劣化診断に介入することで、どこがどのぐらい劣化しているのかを把握でき、「この箇所はまだあまり傷んでいないので、2回目の修繕に回してもいいのでは?」といった検討をすることができます。
まとめ
マンションの大規模修繕は、管理組合で協力して積極的に取り組むことで、成功に導くことができます。
仕事や家事などで忙しい中、管理組合の方々が動くことは、負担も大きいかもしれません。かといって管理会社に丸投げにすると、費用がかさんでしまうこともあるので、注意が必要です。
必要に応じてプロの力を活用しながら、できるだけ効率よく、満足できる大規模修繕を実現しましょう。
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